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岡山地方裁判所 昭和50年(ワ)255号 判決 1976年10月25日

原告

小野好一

被告

中島義身

ほか一名

主文

一  被告らは連帯して原告に対し、金一五〇〇万円およびこれに対する昭和五〇年六月六日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

三  この判決は、原告が被告中島義身のため金一〇〇万円の担保を供するときは、同被告に対し仮に執行することができ、被告中島広志に対しては担保を供しないで仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告

1  主文第一、第二項と同旨

2  主文第一項につき仮執行の宣言

二  被告ら

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  原告の請求の原因

1  事故の発生と原告の傷害

原告は、次のとおり交通事故により被害を受けた。

(一) 発生日 昭和五〇年二月五日午後八時四〇分ころ

(二) 発生地 岡山県玉野市渋川三丁目王子ケ岳登山道西県道上

(三) 被害車 原告運転の原動機付自転車(五〇CC)

(四) 加害車 被告中島広志所有、運転の普通乗用車(岡五五さ七七一七号)

(五) 事故の態様 衝突

被害車が発生地県道上を時速三〇キロメートルで児島方面に進行中、対向車線を玉野方向に時速一〇〇キロメートル位で進行してきた加害車がカーブを曲がり切れず、中央線を突破して被害車に激突したもの。

(六) 傷害の部位および程度

右大腿下腿挫滅創・大腿両下腿骨膝蓋骨複雑骨折

右傷害のため、直ちに玉野市の松田病院に入院し右大腿を切断し、事故の日から現在(ただし、本件訴状作成日の昭和五〇年四月二五日を指す。以下同じ)までいまだ入院中。

(七) 後遺症 第四級第五号(一下肢をひざ関節以上で失つたもの)に該当すると思われる。

2  被告らの責任

(一) 被告中島広志は、加害車を所有し、これを自己のために運行の用に供していたものであるから、自動車損害賠償保障法三条により、原告の損害を賠償する義務がある。

(二) 被告中島義身は、被告中島広志の実父であるが、昭和五〇年二月六日原告との間で、被告中島広志の右損害賠償債務について連帯保証する旨の契約をしたから、右契約に基づき、原告の損害を賠償する義務がある。

3  損害

(一) 治療費 五〇万七六四八円

ただし、昭和五〇年二月五日から同年三月三一日までの分。

(二) 付添費 一二万一〇〇〇円

ただし、原告の母親が医師の指示により昭和五〇年二月五日から同年三月三一日までの五五日間付添をしたので、一日二〇〇〇円として計算した。

(三) 入院雑費 二万七五〇〇円

ただし、一日五〇〇円として前項の期間中の分だけ請求する。

(四) 逸失利益 二〇一六万円

原告は、本件事故により右脚を大腿部(ひざ関節の上)にて切断したもので、明らかに後遺症第四級第五号に該当する。したがつて起点は満一六年とし(原告は昭和三三年六月二日生)、労働能力喪失率は九二パーセント、就労年次は一八年で稼働終了時期を六七年とし、係数は新ホフマン式で、給与額は「政府の自動車損害賠償保障事業損害査定基準」にて、昭和五〇年二月一日以降の事故に使用している年齢別平均給与額別表Ⅳの男子一八歳一か月当り七万九〇〇〇円を使用する(この別表Ⅳは昭和四八年賃金センサス第一巻第二表の産業計、企業規模計、学歴計の年齢別平均給与額を一・一六倍して作成されたもの)。

給与額 一か月七万九〇〇〇円

就労可能年数 四九年

新ホフマン係数 二三・一二三

七万九〇〇〇円×一二×二三・一二三×〇・九二=二〇一六万六九五五円

よつて、原告の逸失利益は二〇一六万円(一〇〇〇円以下切捨)となる。

(五) 入院および後遺症慰藉料 七〇〇万円

原告は、事故時わずか満一六歳にして右大腿部を切断され、現在入院治療中であり、今後の長い一生を重い義足をひきずつて生きてゆく苦痛に悩むことを思うと、その慰藉料として七〇〇万円が相当である。

(六) 損害の填補

原告は、昭和五〇年三月一日被告から四〇万円を受領し、昭和五一年五月中旬ころ自賠責保険金六八七万円を受領した。

(七) 差引損害合計

右(一)ないし(五)の損害合計二七八一万六一四八円から右(六)の損害の填補額合計七二七万円を差引くと、二〇五四万六一四八円となる。

4  結論

よつて原告は被告らに対し、右損害のうち一五〇〇万円およびこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和五〇年六月六日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する被告らの答弁

1  請求の原因1の事実のうち、原告が交通事故により被害を受けたことは認めるが、その内容については争う。

2  同2の(一)の事実のうち、被告中島広志が加害車を所有し交通事故を生じたことは認めるが、その余は争う。

同2の(二)の事実のうち、被告中島義身が被告中島広志の実父であることは認めるが、その余は争う。

3  同3の事実は全部争う。

第三証拠関係〔略〕

理由

一  事故の発生と態様

昭和五〇年二月五日午後八時四〇分ころ、岡山県玉野市渋川三丁目王子ケ岳登山道西県道上において、原告が原動機付自転車(以下原告車という。)を運転中、被告中島広志(以下被告広志という。)が運転する普通乗用車(以下被告車という。)に衝突され、その交通事故により被害を受けたことは、被告らにおいて明らかに争わないからこれを自白したものとみなす。

そして、その方式および趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき甲第一〇ないし第一三号証、原告法定代理人小野一幸および被告中島義身(以下被告義身という。)各本人尋問の結果によれば、被告広志は、被告車を運転して前記県道を児島方面から玉野市内方面に向け、最高速度毎時六〇キロメートルを大幅に越える時速約一〇〇キロメートルで進行中、前方が右に緩やかにカーブした地点にさしかかつたこと、したがつて同被告としては、カーブに応じたハンドル操作ができるように、当然にその手前から適当な速度に調節しておくべきであつたのにこれを怠り、右カーブにさしかかる直前、対向車の前照灯の照射に一時げん惑され前方注視が不十分な状態となつたにもかかわらず、前記速度に近い高速で漫然同カーブに接近して、道路左側の山はだに衝突しそうになつたこと、そのため同被告は、慌てて右に急転把したため、被告車の安定を失つたまま同車を対向車線に進出させ、折から、玉野市方面から時速約三〇キロメートル以内で対面進行してきた原告車に被告車右前部を衝突させて転倒させたこと、以上の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

二  原告の傷害

原告法定代理人小野一幸本人尋問の結果ならびにこれにより原本が存在し、かつそれが真正に成立したものと認められる甲第四ないし第六号証および真正に成立したものと認められる同第七号証、その方式および趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき同第八号証の一、二によれば、原告は、本件事故により、右大腿下腿挫滅創、大腿両下腿骨膝蓋骨複雑骨折の傷害を受け、本件事故当日直ちに玉野市内の松田病院に入院して右大腿切断術を施行され、以後昭和五〇年八月七日まで一八四日間同病院に入院して治療、訓練を受けたこと、原告は、退院後も同年八月八日から週二、三回の割合で右松田病院に通院して治療、訓練を受けており、昭和五一年二月四日の時点でも通院中であること、原告は、右大腿切断のため、岡山県により右下肢を大腿の二分の一以上で欠くものとして身体障害者福祉法別表第四の第三(身体障害者等級表の第三級)に認定されており、平常は義足をつけ、義足をつけないときは松葉杖を使用して歩行していること、以上の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

右認定事実によれば、原告の右大腿切断による後遺障害は、自動車損害賠償保障法施行令別表の後遺障害等級第四級第五号(一下肢をひざ関節以上で失つたもの)に該当すると認めるのが相当である。

三  被告広志の責任

被告広志が被告車を所有していたことは当事者間に争いがなく、しかも被告広志は同被告が本件事故当時被告車を自己のために運行の用に供していたことは明らかに争わないので、これを自白したものとみなすべく、同事実によれば、被告広志は、自動車損害賠償保障法三条により、原告が本件事故により蒙つた後記損害を賠償する義務がある。

四  被告義身の責任

被告義身が被告広志の実父であることは当事者間に争いがなく、右事実と、原告法定代理人小野一幸本人尋問の結果、被告義身本人尋問の結果(ただし、後記措信しない部分は除く。)およびこれにより真正に成立したものと認められる甲第三号証とを合わせれば、被告義身は、本件事故の翌日である昭和五〇年二月六日、息子の被告広志外一名と共に原告(当時未成年者)の実父で親権者である小野一幸方を訪れ、同人に対し、被告広志が本件事故により原告に傷害を与えたことを詫びるとともに、原告が本件事故により蒙つた損害については被告らにおいて一切責任をもつ旨言明したこと、そこで小野一幸は、被告義身らに対し右言明したことを確約するため一札を入れて貰いたい旨要求したところ、被告義身は、その席で、「本件事故について発生する損失賠償の一切の責は加害者側にてその一切の責に任じる事をお約束致します」旨の証約書に被告広志と連署指印をしたうえ、これを小野一幸に差し入れたこと、右証約書は、その席に立会つていた小野一幸の友人市森俊雄が文案を考え、同じく立会つていた小野一幸の伯父西谷隅太郎が本文を代筆して膳立されたものであるが、被告義身は、右証約書の文言内容について何ら異議の申立をすることなくその文旨を了解のうえ任意に署名指印したものであること、また被告義身は、小野一幸から本件事故による損害賠償の具体策について尋ねられたさい、同人に対し、最終的には家屋敷を担保に入れるか売却処分してでもその償いをする旨決意を表明したこと、以上の事実が認められ、さらに弁論の全趣旨によれば、小野一幸は、原告の親権者として被告義身らとの間で右のような交渉ないし約束をすることについて、あらかじめ原告の実母で他方の親権者である妻の小野恭子から当然に黙示の許諾を与えられていたものと推認するのが相当である。

被告義身本人尋問の結果の中には、被告義身は小野一幸に対し、同被告において本件事故による損害賠償の責任を持ち、家屋敷を処分してでも償いをする旨申述したことはないとの供述部分、被告義身が右証約書に署名指印したのは、被告広志が責任をもつて本件事故による損害賠償債務の履行に当ることを証明、確認する趣旨でなしたものにすぎず、被告義身も被告広志と連帯して右責に任じるという趣旨は含まれていないとの供述部分、さらにまた、被告義身が右証約書に署名指印したのは、小野一幸から証約書に署名押印しなければどんなに帰りが遅くなつても帰さないと言われたので、やむなくその要求に従わざるをえなかつたとの、暗に脅迫ないし強制を受けたことをにおわす供述部分があるが、これらはいずれも前掲各証拠に照らし容易に措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定事実によれば、被告義身は、昭和五〇年二月六日原告(ただし、親権者小野恭子の黙示の許諾を受けた親権者小野一幸を代理人として)との間で、原告が本件事故により蒙つた損害の賠償債務について被告広志と連帯して保証する旨の契約を締結したものと認めるのが相当である。

したがつて被告義身もまた右連帯保証契約に基づき、被告広志と連帯して原告が本件事故により蒙つた損害を賠償する義務がある。

五  損害

(一)  治療費等 五〇万七六四八円

前掲甲第五号証、原告法定代理人小野一幸本人尋問の結果によれば、原告は、本件事故による傷害の治療等のため、合計五〇万七六四八円を松田病院に支払つたことが認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

したがつて、原告は、本件事故により、治療費等として右同額の損害を蒙つたものと認められる。

(二)  付添費 一一万円

前掲甲第四号証、弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故による受傷により、松田病院医師により昭和五〇年二月五日から同年三月三一日まで五五日間絶対安静、常時看視の必要を理由に付添看護を要すると判断されたことが認められ、右医師の指示に基づき原告の母親が右全期間中原告の付添看護に当つたことが推認されるところ、当時における近親者の付添費は原告の傷害の内容、程度等とも合わせ考えると一日二〇〇〇円とみるのを相当とするので、原告は、本件事故により、付添費として一日二〇〇〇円の割合による五五日分、一一万円の損害を蒙つたものと認めるのが相当である。

(三)  入院雑費 二万七五〇〇円

原告は、本件事故による傷害の治療のため一八四日間入院したことは前認定のとおりであり、その間雑費として一日五〇〇円を下らない支出を余儀なくされたものと推認するのが相当であるところ、原告はそのうち前記要付添期間五五日分だけを請求するので、その限度で損害と認めることにすると、原告は、本件事故により、入院雑費として一日五〇〇円の割合による五五日分、二万七五〇〇円の損害を蒙つたことになる。

(四)  逸失利益 一四九七万八三八二円

その方式および趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき甲第一号証、原告法定代理人小野一幸本人尋問の結果によれば、原告は、昭和三三年六月二日生れの男子で、本件事故当時満一六歳の高校一年生であつたことが認められるところ、平均余命年数表(厚生省第一二回生命表)によると満一六歳の男子の平均余命は五三・九七年であることに徴すると、原告は満一八歳から満六七歳までの四九年間稼働しうるものと推認することができる。そして昭和四九年の賃金センサス(賃金構造基本統計調査)によれば、産業計・企業規模計の満一八歳から一九歳までの男子労働者のきまつて支給する現金給与額は七万五四〇〇円、年間賞与その他特別給与額は一〇万五一〇〇円であることが明らかであり、したがつて年間給与額合計は一〇〇万九九〇〇円となる。原告は、本件事故により前記二で認定のとおり永続性のある後遺障害を残し、その程度は自動車損害賠償保障法施行令別表の後遺障害等級第四級に相当するところ、原告の右後遺障害の内容・程度、原告の年齢(労働能力の回復可能性)等に照らし、原告は右後遺障害のため通常の身体状況に比し九〇パーセントの労働能力を喪失しているものと認めるのが相当である。

したがつて、原告は、右稼働可能期間を通じて毎年あげえたはずの収益一〇〇万九九〇〇円の九〇パーセントに当る九〇万八九一〇円を失つたものというべきであり、右逸失利益につきライプニツツ式計算法(本件のように長期にわたるときはホフマン式計算法の採用は相当でない。)により年五分の割合による中間利息を控除して本件事故当時の現価を算定すると一四九七万八三八二円(一円未満切捨)となる。

算式 九〇万八九一〇円×(一八・三三八九-一・八五九四)=一四九七万八三八二円

したがつて、原告は、本件事故により、逸失利益として一四九七万八三八二円の損害を蒙つたものと認められる。

(五)  慰藉料 七〇〇万円

前認定のような原告の本件事故による傷害の部位・程度、後遺障害の部位・程度、入、通院期間ならびに本件事故の態様その他本件にあらわれた諸般の事情をしんしやくすると、原告が本件事故により蒙つた精神的苦痛を慰藉するには原告主張のとおり金七〇〇万円をもつて相当と認める。

六  損害の填補

原告法定代理人小野一幸本人尋問の結果および弁論の全趣旨によると、原告は、本件事故による損害の填補として昭和五〇年三月一日までに被告から四〇万円、昭和五一年五月中旬ころ自賠責保険より六八七万円、合計七二七万円を受領したことが認められ、これに反する証拠はない。

七  結論

そうすると、被告らは連帯して原告に対し、本件事故による損害賠償として、前記五の損害合計二二六二万三五三〇円から右六の損害の填補額合計七二七万円を控除した残額一五三五万三五三〇円のうち原告が本訴で請求している一五〇〇万円およびこれに対する本件訴状が被告らに送達された日の翌日であること記録上明らかな昭和五〇年六月六日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

よつて原告の本訴請求は、すべて理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 竹原俊一)

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